鳥肌が立った出来事。
まさか、こんな光景を見る日が来るとは…感慨深いです。
上記の動画で、ホストを務めている男の名前は、ジェンク・ユーガー(Cenk Uygur)。
この番組"COUNTDOWN"の正式なホストではありません。
本当のホストであるキース・オーバーマン(Keith Olbermann)がお休みをとったため、ジェンクが代わりに臨時ホストとして入ったわけです。
この「ジェンクという男が、このCOUNTDOWNという番組でホストをしている」ということは、アメリカのメディア革命を象徴する大きな出来事なのです。
ちょっと解説したいと思います。
アメリカのテレビニュースチャンネルを見ると、報道の仕方が保守かリベラルかに偏っていることがわかります。もちろん、ニュースチャンネル自身は、思想にバイアスがかかっていることを否定しますが、見ていればわりと明らかです。
保守メディアの代表といえば、何と言ってもFOX NEWSです。保守派ですから、共和党の支持者が好むような思想(政府は小さく税金は低く、自由貿易、銃OK、同性婚ダメ、中絶ダメ、国民皆保険ありえない、レーガンがヒーロー 等々)を持ったホストをそろえ、ニュース番組を提供しています。
そのFOX NEWSの中でもボス的存在なのが、ビル・オーライリー(Bill O'Reilly)。
この動画のように、ゲストと喧嘩になることがしょっちゅうです。彼には熱狂的な支持者と、対極には多数のアンチが同時に存在しています。彼の"The O'Reilly Factor"というニュース番組は、ケーブルテレビのニュース番組の中で最も視聴率が高い番組ですが、好きな人も嫌いな人もみんな見るのでしょう。
ビル・オーライリー率いるFOXに対抗するのが、リベラルメディアの代表であるMSNBCです。CNNや、CBSもリベラル寄りですが、MSNBCは、ハッキリとリベラル色を打ち出していて、一部では「プログレッシブ」(急進的)という形容詞が使われることもあります。
2年前の大統領選挙では、MSNBCは大きな役割を果たしました。リベラルのMSNBCは、民主党支持者の好む思想(弱者に優しく、政府は市場を管理、規制貿易、銃ダメ、同姓婚OK、中絶OK、国民皆保険推進、オバマ、クリントンがヒーロー)を背景に、連日共和党およびブッシュ大統領を攻撃し続けたのです。
そして、MSNBCの急先鋒、キース・オーバーマンのニュース番組が "COUNTDOWN"。
ビル・オーライリーに負けないくらい濃いキャラクターで、共和党に関連する全てのことを否定し続けます(笑)。
ビル・オーライリー、ラッシュ・リンボー(この人はラジオホストですが、オーライリーよりもさらに過激)といった保守陣営をボコボコにしています。
ここまで来ると、完全にショーですから、安心して「懐疑的に」番組を見ることができます。バイアスのかかっていることが視聴者にわかっているから、テレビ局を変に疑う必要もなく、逆に安心なのです。アメリカのニュース番組を見ていて気持ち良いのは、こういう風にテレビ画面に出てくる人が、ポジションをハッキリと取り、それを表現することです。
もう一人MSNBCの強力なアンカー、レイチェル・マドウ。
彼女は、主要テレビ局・プライムタイムのニュース番組のホストとして、ゲイでありながら抜擢された初めての女性です。「存在自体がリベラル」で、保守派にとっては脅威なのです。
さて、ジェンクの話に戻ります。
ジェンクは、もともと、テレビ界の人間ではありません。
トルコ系アメリカ人としてNJで育ち、ウォートンMBA、コロンビア・ロースクールを卒業したエリートです。法律事務所勤務と同時に、ラジオ放送を副業でこなし、2002年に、インターネットでニュースとエンターテイメント情報を配信するザ・ヤング・タークス(The Young Turks)というニュース番組を立ち上げました。
ジェンクは、インターネットで、ニュース番組をゼロから作ったのです。
テレビのセットには到底かなわない、貧相なスタジオですが、ジェンクは持ち前の弁舌を生かして、YouTube上での視聴者をドンドン増やしていきます。収益は広告と寄付によって成り立っています。私も、ヤングタークスが結構好きだったので、3年前から会員になり、毎月10ドルですが寄付をさせてもらってます。
ジェンクの口癖は、"Let's keep it real"。建て前を排除し、全ての物事を本音で切り、誰に遠慮することもありません。
2008年、ヤングタークスはすでにネット上では一大メディアとなっていました。大統領選において、MSNBCなどの主要リベラルメディアの「援護射撃」とも呼べるニュースクリップを次々と展開します。
ヤングタークス自体は、2時間ほどのニュース番組なのですが、彼らはそれをいくつかの細かいニュースクリップ単位に動画を分け、それを次々とYouTubeにアップしたのです。共和党副大統領候補ペイリンを攻撃しているのが次のクリップ。こんな感じのクリップが、YouTubeからは山のように出てきます。
ジェンク率いるヤングタークスの影響力は、日に日に大きくなり、テレビ局も無視できないほどになりました。昨年から、テレビ局のニュース番組に、ジェンクがコメンテーターとしてゲスト出演する回数がだんだん多くなっていったようです。
そして、今年の7月(6月だったかな)、The Dylan Ratigan ShowというMSNBCのテレビ番組で、ジェンクが臨時ホストをつとめました。ネット出身のアンカーが大手テレビ局のニュース番組ホストを任されるという、歴史的瞬間です。
アメリカの番組ホストはよく休みをとります。そうすると、代わりのアンカーが臨時ホストとして入るわけですが、当然経験や人気が乏しいアンカーが入るので、視聴率は落ちるのが普通です。ところが、臨時ホストとしてジェンクが入ると、視聴率が大幅に伸びるのです。ネットでの支持者が、「ジェンクが出るんなら、見よう」と思うのでしょう。こうなったら、テレビ局としてはもう無視することはできません。
こうしてジェンクは、MSNBCの看板番組であるCOUNTDOWNのホストをつとめるまでになりました。昔からジェンクを支持していた自分としては、鳥肌が立つほど感動的な出来事です。
ネットで視聴者ゼロからスタートし、頭脳と弁舌で視聴者を増やし、ついにCOUNTDOWNの臨時ホストにまでのぼりつめたジェンク。MSNBCが、ジェンクの新ニュース番組を作るのは時間の問題といわれています。
ジェンクがテレビ界に行ってしまうのは、ネットのファンとしてはさびしいところです。でも、遅かれ早かれ、ジェンクはテレビの仕事をやめ、ヤングタークスに完全に戻ってくる日が来るのでしょう。その時こそ、テレビの時代は終わり、本当のメディア革命が起きたと言えるのかもしれません。
まさか、こんな光景を見る日が来るとは…感慨深いです。
上記の動画で、ホストを務めている男の名前は、ジェンク・ユーガー(Cenk Uygur)。
この番組"COUNTDOWN"の正式なホストではありません。
本当のホストであるキース・オーバーマン(Keith Olbermann)がお休みをとったため、ジェンクが代わりに臨時ホストとして入ったわけです。
この「ジェンクという男が、このCOUNTDOWNという番組でホストをしている」ということは、アメリカのメディア革命を象徴する大きな出来事なのです。
ちょっと解説したいと思います。
アメリカのテレビニュースチャンネルを見ると、報道の仕方が保守かリベラルかに偏っていることがわかります。もちろん、ニュースチャンネル自身は、思想にバイアスがかかっていることを否定しますが、見ていればわりと明らかです。
保守メディアの代表といえば、何と言ってもFOX NEWSです。保守派ですから、共和党の支持者が好むような思想(政府は小さく税金は低く、自由貿易、銃OK、同性婚ダメ、中絶ダメ、国民皆保険ありえない、レーガンがヒーロー 等々)を持ったホストをそろえ、ニュース番組を提供しています。
そのFOX NEWSの中でもボス的存在なのが、ビル・オーライリー(Bill O'Reilly)。
この動画のように、ゲストと喧嘩になることがしょっちゅうです。彼には熱狂的な支持者と、対極には多数のアンチが同時に存在しています。彼の"The O'Reilly Factor"というニュース番組は、ケーブルテレビのニュース番組の中で最も視聴率が高い番組ですが、好きな人も嫌いな人もみんな見るのでしょう。
ビル・オーライリー率いるFOXに対抗するのが、リベラルメディアの代表であるMSNBCです。CNNや、CBSもリベラル寄りですが、MSNBCは、ハッキリとリベラル色を打ち出していて、一部では「プログレッシブ」(急進的)という形容詞が使われることもあります。
2年前の大統領選挙では、MSNBCは大きな役割を果たしました。リベラルのMSNBCは、民主党支持者の好む思想(弱者に優しく、政府は市場を管理、規制貿易、銃ダメ、同姓婚OK、中絶OK、国民皆保険推進、オバマ、クリントンがヒーロー)を背景に、連日共和党およびブッシュ大統領を攻撃し続けたのです。
そして、MSNBCの急先鋒、キース・オーバーマンのニュース番組が "COUNTDOWN"。
ビル・オーライリーに負けないくらい濃いキャラクターで、共和党に関連する全てのことを否定し続けます(笑)。
ビル・オーライリー、ラッシュ・リンボー(この人はラジオホストですが、オーライリーよりもさらに過激)といった保守陣営をボコボコにしています。
ここまで来ると、完全にショーですから、安心して「懐疑的に」番組を見ることができます。バイアスのかかっていることが視聴者にわかっているから、テレビ局を変に疑う必要もなく、逆に安心なのです。アメリカのニュース番組を見ていて気持ち良いのは、こういう風にテレビ画面に出てくる人が、ポジションをハッキリと取り、それを表現することです。
もう一人MSNBCの強力なアンカー、レイチェル・マドウ。
彼女は、主要テレビ局・プライムタイムのニュース番組のホストとして、ゲイでありながら抜擢された初めての女性です。「存在自体がリベラル」で、保守派にとっては脅威なのです。
さて、ジェンクの話に戻ります。
ジェンクは、もともと、テレビ界の人間ではありません。
トルコ系アメリカ人としてNJで育ち、ウォートンMBA、コロンビア・ロースクールを卒業したエリートです。法律事務所勤務と同時に、ラジオ放送を副業でこなし、2002年に、インターネットでニュースとエンターテイメント情報を配信するザ・ヤング・タークス(The Young Turks)というニュース番組を立ち上げました。
ジェンクは、インターネットで、ニュース番組をゼロから作ったのです。
テレビのセットには到底かなわない、貧相なスタジオですが、ジェンクは持ち前の弁舌を生かして、YouTube上での視聴者をドンドン増やしていきます。収益は広告と寄付によって成り立っています。私も、ヤングタークスが結構好きだったので、3年前から会員になり、毎月10ドルですが寄付をさせてもらってます。
ジェンクの口癖は、"Let's keep it real"。建て前を排除し、全ての物事を本音で切り、誰に遠慮することもありません。
2008年、ヤングタークスはすでにネット上では一大メディアとなっていました。大統領選において、MSNBCなどの主要リベラルメディアの「援護射撃」とも呼べるニュースクリップを次々と展開します。
ヤングタークス自体は、2時間ほどのニュース番組なのですが、彼らはそれをいくつかの細かいニュースクリップ単位に動画を分け、それを次々とYouTubeにアップしたのです。共和党副大統領候補ペイリンを攻撃しているのが次のクリップ。こんな感じのクリップが、YouTubeからは山のように出てきます。
ジェンク率いるヤングタークスの影響力は、日に日に大きくなり、テレビ局も無視できないほどになりました。昨年から、テレビ局のニュース番組に、ジェンクがコメンテーターとしてゲスト出演する回数がだんだん多くなっていったようです。
そして、今年の7月(6月だったかな)、The Dylan Ratigan ShowというMSNBCのテレビ番組で、ジェンクが臨時ホストをつとめました。ネット出身のアンカーが大手テレビ局のニュース番組ホストを任されるという、歴史的瞬間です。
アメリカの番組ホストはよく休みをとります。そうすると、代わりのアンカーが臨時ホストとして入るわけですが、当然経験や人気が乏しいアンカーが入るので、視聴率は落ちるのが普通です。ところが、臨時ホストとしてジェンクが入ると、視聴率が大幅に伸びるのです。ネットでの支持者が、「ジェンクが出るんなら、見よう」と思うのでしょう。こうなったら、テレビ局としてはもう無視することはできません。
こうしてジェンクは、MSNBCの看板番組であるCOUNTDOWNのホストをつとめるまでになりました。昔からジェンクを支持していた自分としては、鳥肌が立つほど感動的な出来事です。
ネットで視聴者ゼロからスタートし、頭脳と弁舌で視聴者を増やし、ついにCOUNTDOWNの臨時ホストにまでのぼりつめたジェンク。MSNBCが、ジェンクの新ニュース番組を作るのは時間の問題といわれています。
ジェンクがテレビ界に行ってしまうのは、ネットのファンとしてはさびしいところです。でも、遅かれ早かれ、ジェンクはテレビの仕事をやめ、ヤングタークスに完全に戻ってくる日が来るのでしょう。その時こそ、テレビの時代は終わり、本当のメディア革命が起きたと言えるのかもしれません。