March 09, 2010

semco

ふと、古本屋に立ち寄って、2冊の本を手にしました。
第一冊目がこれ。

告白 (文春文庫)
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この本、何気なく古本屋で手に取ったみたのですが、メチャクチャ面白いです。ちょっと数ページだけかじってみるはずが、喫茶店で一気に最後まで貪るように読んでしまいました。

大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件を引き起こした井口氏の告白です。この本、やたら文章が洗練されていたので、大学からアメリカ生活をしていて、その後銀行業務にどっぷり漬かっていた本人が本当に書いたのかな?と勘ぐってしまいました。全体の文章の構成(時系列的なコンテンツの配置)や事件の細部にわたる説明や所々に見られる「技あり」な比喩表現方法など、自分の目からするとあまりにもうますぎて、アマチュアのライターでは絶対に書けないのではないかと疑ってしまいました。もしプロのライターが手を加えたとしたら、逆にそのプロのライターは、他にどんな著作を書いたんだろうと、興味を持ってしまいました。

あちこちで、ニューヨークの聞きなれた地名やストリート名が出てきたので、事件の情景が一つ一つ思い浮かび、よりリアルに迫ってきたのも、自分にとってこの本が面白かった要因の一つです。あの時、あの場所で、あんなことが起きていたんだと…自分も同じような立場に追い込まれていたら、同じような行動をとっていたかもしれない、そう思うとゾッとします。現在の金融機関のガラス張りの管理体制だったら絶対に短期間でバレていたはずの無断取引を、彼は12年間も隠し通したのです。最初は、5万ドルの損失を取りかえそうと行ったことが次々と裏目に出て、損失は最終的に11億ドルにまでなってしまうのです…想像を絶します。

表紙の絵は、おそらく事件当時にNew York Timesで使われたという本人の学生時代の写真です。無垢な23歳・マッシュルームカットの写真は、この男が11億ドルもの巨額損失をひきおこしたという事実と対比されて、逆に不気味な雰囲気をかもし出しています。


奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ
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先ほどの井口氏の本を読んだ後は、「やっぱり、会社は社員の管理体制をしっかりしないとな」という読後感で一杯でしたが、この本は、完全にその逆をいくものでした。
自分自身、同じタイミングでこの一見相反する2つの本を買っていたことに驚きました。この本の著者リカルド・セムラー氏(セムコ社CEO)は、経営をする上で、従業員に対するコントロールを完全に手放すべきだ、ということを主張し、実際に経営の場で実践して成功を収めています。

会社で働く従業員一人一人を良識のある「大人」とみなし、ほぼ全てのオペレーションを、6-10人単位の集団ごとに責任を移譲してしまうのです。この会社では、出勤時間や仕事内容、さらには給料まで従業員が自分達で決めてしまいます。事業計画、売上目標、ミッションステートメントやクレドも全くなしです。そんなことしたら、従業員に好き勝手に会社を利用されてしまうのではないか、と思うかもしれませんが、このセムコという会社では、きちんと機能しているらしいのです。

あまりにも違う世界が描写されているような気がして、そんなことが果たして可能なんだろうかと最初は眉唾ものでした。しかし、本を読み進めていくにしたがい、具体的事例の数々によって、否が応でも納得させられている自分に気づきました。社員が不正を働いたことも当然あったそうです。しかし、それは当事者同士で問題を解決させ、経営者として、それを契機にコントロールを押し付けることはないそうです。

先ほどの本に述べられている大和銀行の事件も、セムラー氏であれば「ウチの会社でそんなことは起きるはずがない」と言うでしょう。つまり、心から自分がやりたくて就いた仕事で、その内容に誇りを持ち、売上目標を自分で決めていて、会社から押し付けられるものが何もない状況であれば、無断取引をするなど、トレーダーにとって何の意味もないことだからです。

数々の成功者の本を読んで、今まで疑問に思ってきたことがあります。成功の尺度として、たくさんのお金を持っているとか、大きい家や良い車を保有することを良しとし、中にはそれをことさら誇張する経営者がいます。ところが、それを以って皆の模範になるのは、無理があるのではないかと思うのです。物質的な豊かさを手に入れることができなければ、即人生が不幸であるということなのでしょうか。それならば、全ての人が幸福を享受することはできない、ということです。そんな立場を経営者自身がとっていたら、そこで働いている従業員は、「全員が勝つことのできないゲーム」を強いられ、敗北の恐怖におびえながら仕事人生を送ることになりそうです。

「不労所得を得て、幸せなお金持ちになろう」みたいなことが数年前に流行しましたが、あまりの思想の浅さに、私自身は辟易します。こういうスローガンを掲げる人は、意図はしていないと思いますが、実は全ての人が勝てるわけではないゼロサムゲームに人を誘っているのです。一見、明るいその言葉の影には、勝ち負けの世界があり、その裏にあるのは、敗北に対する恐怖と不安です。

私は不労所得が悪いと言っているわけでは全くありません。ポイントは、提案しているゲームの本質が「お金を得る」ことなのか、「自己表現をする」ことであるかということです。前者は全ての人が勝てないゲーム、後者は全ての人が勝てるゲームです。これによって、決定的に幸福度が変わってくると思うのです。

私は、仕事(もしくは人生)の醍醐味は、仕事自体を自分の自己表現と完全に一致させることだと思っています。自分を表現することが、そのままお客様への貢献になる。お客様への貢献が、報酬となって返ってくる。仕事で幸福をもたらすのは「これだけ」だと思うのです。報酬は二の次で、自己表現が第一、この順序が決定的に重要だと思います。

自己表現は、誰でも、どんな職業でもできます。新しい事業に挑戦したい!ということが自己表現だという人がいます。お客様と会話をしたい、接客をして気持ちよくなった欲しいということが自己表現の人もいます。データエントリや事務的な仕事をすることや、掃除をすることが自己表現だという人もいるでしょう。それぞれの性格によって、どんなことが充足感をもたらすのかは違ってくるはずです。

セムコ社のマネジメントは、まさに全ての従業員に自己表現の機会を提供し、徹底的に満たしてくれるやり方であると思います。こんなすばらしい企業を作り、現在も維持しているセムラー氏に敬意を表したいです。

この本の中で、元GEのジャック・ウェルチ氏の「下位10%のパフォーマンスの従業員はクビにする方針」を断罪している箇所がありましたが、このくだりは圧巻です。

ぜひ、皆におすすめしたい本です。

jimmy_nyc at 02:50コメント(0)トラックバック(0)葦編三絶 | 情報解剖 この記事をクリップ!

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