Jonという友人がいます。

彼と知り合ったのは昨年の11月。ある3ヶ月のリーダーシップの研修で、私はコーチとして参加したのですが、彼は私がコーチングを担当した4人のチームメンバーのうちの1人。

彼は、私より3歳くらい年上で、映画やCMのプロデューサーをやっています。
New YorkやLos Angelesでは、日本では縁のなかったような映画・舞台関係者と知り合う機会が増えました。すでにメジャーな舞台で活躍している人もいれば、下積みでブレークの機会をうかがっている人もいます。

今まではなかなか芽が出なかったけど、数年間とりかかってきた映画が、今度やっと公開にこぎつけるんだ、とジョンが言っていたのが2月頃。
映画祭に出展が決まった!と喜んでいた時には、私はまだその映画の広がりを全く予想していませんでした。

映画の名は、"Beautiful Losers"

http://www.beautifullosers.com/

その後、New Yorkなど全米各地での公開が続々と決まったらしく、Jonの姉から「みんなで見に行こう!」という趣旨のメールを受け取りました。
おやおや、結構大きくなってるんだなと思って、ウェブサイトのリンクを開いてみると、

"JAPAN PREMIERE"

の文字が…。

日本公開?
こ、これは…そんなにすごい映画なのか。いきなり日本で公開するというのは、よほどのことじゃないのか。すごいぞJon。

信じられない気持ちでリンクを開いてみると、なんと、学生の頃から何度も足を運んだ、渋谷のシネマライズで、公開するというのです(正確には、シネマライズの隣の"ライズエックス"という場所でしたが)。

シネマライズは、覚えているだけでも「ビッグ・リボウスキ」、「ムトゥ・踊るマハラジャ」、「アメリ」、「ボーイズ・ドント・クライ」、「ロスト・イン・トランスレーション」、「ドッグヴィル」などの名作を見た覚えがあります。メジャーの一歩手前のような作品が公開される単館上映系のシブい映画館なのです。たまに「アメリ」のような化け物的ヒット作が排出されます。


そういうわけで先週、久々に日本に行ったので、見に行ってまいりました。

ちょっと小雨の降る渋谷。
スペイン坂を登りきってチケット購入。

BLosers


奥の真ん中にポスター発見。
おお、すごいぞJon。

券を買うと、そこで、映画館が「シネマライズ」ではなく「ライズエックス」であることを知ります。ええっ、そんなとこがあったんですか?

「場所わかりますか?スペイン坂をちょっと下ってください」

Bloser2


ああ、ここが入り口だったのか。何やら小さいぞ。
今まで、こちらの方には入ったことがなかった。
なんと、やけに小さい映画館だろうか…38席しかないという。

しかも、客があまり入っていない…大丈夫か…これでいいのかJon。
1、2、3、4…10人くらいだな。この回の売上は18,000円か。これを1日5回上映するとして、上映期間を30日と仮定すると合計売上は…いやいや、こんな計算をしている場合ではない。


気を取り直して、画面に見入ります。
映画は、ドキュメンタリー風です。

芸術分野において何の教育も受けていない、ストリートアートをする人達が、いかにして彼らのアートを極めていったか、というプロセスが、各アーティストへのインタビューを通して描かれています。

ストリートアートの1例は、New Yorkのビルなどで見る、スプレーで描かれた文字や絵です。

印象に残ったのが、彼らの退廃的なムード。自分達が作り上げた作品に対して「こんなものには何の価値もないんだ」「ガキの落書きと一緒だよ」「本当にくだらない」などと言い放ちます。

彼らのアートは、目的のないアートです。
お金や名声が欲しいわけではない。ムリに反抗しているわけでもない。
彼らは、描く。アーティストだから。それだけ。
それは〇〇のためとか、そういう動機がないのです。

ところが、そんなくだらないアートに、人は魅せられていきます。New Yorkのイーストビレッジでひっそりとはじまったギャラリーは、徐々に動きが拡大し、世界的に有名になるアーティストが続々と生まれます。中には、大企業のCMデザインを任される人も出てきます。

しかし、有名になった後でも、彼らはあくまでアーティスト。ひたすら、何の目的もなく彼らは描き続けるのです。それが、アーティストだから。

すべての「価値無きモノ」に対する敬意と愛情を感じました。
人の創るものに、価値なんか、なくとも良いのです。子供のように、夢中になって創ることの喜びに埋没する、そんな幸福感がヒシヒシと伝わってきました。


すごいぞJon。あの時、こんな映画を作っていたのか。
今度会ったら、「最高にくだらなく、つまらない映画だった」と言ってあげよう。
それが、たぶん彼にとっての、一番の褒め言葉に違いない。