私はヒソヒソと話をしている彼らに駆け寄り、質問をしました。

「何か悪いところでも見つかったのか?」
「いやー、この車は明らかに事故に遭ってるよ」

はじめ、修理工は、私を犯罪者であるかのような目つきで見ていました。
私が、アレックスをだまして、事故車を売りつけようとしているのだと思ったに違いありません。
アレックスも、複雑な表情を私を見ています。

修理工は続けて言います。

「誰が見ても明らかだよ」
「え?CARFAXにも、事故ってないって書いてあるぞ、これを見てみろ」

私は、車両の事故履歴が掲載されたCARFAXを見せました。
修理工は、堂々と詰め寄ってきた私に驚いたようでもありました。

「そんなの、あてになんないよ。事故履歴に載らないように、修理したんだろ」
「でも、交通事故を起こしたら、警察に届けられて、ここに載るはずじゃないのか?」

「いや、運転できるほどの小さい事故だったら、わからないよ。とにかく、この部分を見てみればわかる。パーツが取り替えられた部分には、車出荷当時のVIN番号(Vehicle Identification Number)のシールが貼ってあるはずなんだ。でも、これを見ると、ないだろ。車の右前部分が、どこかにぶつかって、パーツが交換された証拠だよ」

私は言葉を失いました。自分が今まで運転していたのは、明らかな事故車だったのです。

「自分は、今まで事故車に乗ってたなんて、知らなかった…」
「んじゃ、ディーラーにだまされたんだな。こんなの、ディーラーだったら、絶対わかってたはずだよ。」

私は、ショックを受けました。ディーラーだったら、わかっていたはず。そうなんでしょうか。
数ヶ月前に行ったディーラーで、私は、セールスマンのウォレスに、面と向かって、ウソを言われていた、ということです。彼らは事実を知りながら、平然と私に事故車を売りつけていたことになります。

「でも、事故車だったら、僕はどうすればいいんだ?このまま事故車だと知ったまま、走りたくないよ」
「ディーラーの所にでも持って行きな。今まで走っていて大丈夫なんだったら、そこまでは問題ないんじゃないか?」

大丈夫なんだったら、なんで、アレックスには引き渡せないんだ?
信じられない思いで、落ち込んでいると、アレックスが、私に聞いてきました。

「本当に残念だけど、チェック、返してくれるかな…」

口元は笑っているが、目は笑っていません。

「ごめん。母親にはちゃんとした車をあげたいんだ」

彼の言うことはごもっとも。私はあと少しで手にしていたはずの、$11,500のチェックを返しました。


修理工の人は、それでも私を疑っているようでした。
疑われていると知れば、普通のアメリカ人なら、攻撃的に反駁するのが普通でしょう。
私がそれをしないので、それが彼にどう映ったのかはわかりません。


もはや、どう見られるかは問題ではありませんでしたが、失意のうちに、その事故車を運転し、Great Neckを離れたのです。