翌日、オフィスに行くと、ボスのマークが私に聞きました。
結局、車はどうするんだ、と。

「赤いトヨタのカローラを予約したよ。かなりうまく値切ったと思う。$10,500までに下げることができた。今日、サインをしにいく」

「そうか。ちょっと不安だから、今日は一緒についていってやろう」

私はちょっとだけ、ムカッとしました。
完全に子供扱いされているからです。
しかし、まぁ別に連れて行っても悪いことはありません。
彼に意見を伺うのもいいかと思い、OKとしました。

夜になり、そのカーディーラーへ向かいました。
セールスマンのウォレスがそこにいました。

彼は、車へ私とマークを連れて行ってくれました。
マークは、始終しかめっ面をしています。マークは、とても穏やかな人間ですが、基本的に人を信用しないんです。それが民族的なものから来ているものなのかはわかりませんが、とにかく、自分のネットワーク外の人間に対しては、極めて疑り深い。

車を四方八方から眺めたマークは、私に言いました。

「これ、試乗してもいいか?」

私は、疲れていたのと、8時から人気番組である"The Apprentice"のセカンドシーズンを見たかったのとで、早く帰りたい気持ちで一杯でした。

「え?そんなの、もういいよ。これに決めたし、僕も乗ったんだから」

「んー、本当にいいのか?」

「早く、サインしちゃおうよ」

この時、仮に経験豊富な彼が試乗していれば、この車が実は事故車だったことが、わかっていたかもしれないのです。私は、一時的な焦る気持ちで、そのチャンスをふいにしてしまったのでした。

ディーラーの建物の中に入って、次に会うのは"finance guy"です。要するに、契約とか、ローンとかを取り仕切るマネージャーです。その男は、ブルックリンなまりのイタリアンで、ジャラジャラとネックレスや宝石をつけており、見るからにインチキくさい男でした。

マークは、当然警戒している様子で、しかめっ面を終始くずしません。
男が準備している間、マークはずっと彼をにらんでいました。